研究概要 |
〔序論〕小児悪性固型腫瘍のうちでも、症例数の少ない稀な腫瘍に対する化学療法剤の選択には苦慮することが多い。われわれは、8ケ月女児の臀部より摘出した悪性間葉腫を、ヌード・マウスの皮下に継代移植をおこない、これを用いて、化学療法剤の感受性試験をおこなった。 〔方法〕使用した薬剤は、ビンクリスチン,サイクロフォスファマイド,アクチノマイシンD,DTIC,メトトレキセート,シスプラチン,アドリアマイシンの7種類でこれを腹腔内に投与し、腫瘍重量の増減から、有効性を判定した。 〔結果〕これら7種類の薬剤のうち、有効と判定されたのはシスプラチン、やや有効と判定されたのはビンクリスチン、その他の5種の薬剤は無効と判定された。この悪性間葉腫の患児は、手術後10ケ月に、胸腔内再発をきたした。そこで、この感受性試験の結果にもとづき、シスプラチンを投与した。しかし、臨床的には、シスプラチンは、殆んど無効で、患児は再発後5ケ月、腫瘍死した。これより、臨症例とヌード・マウス移植系腫瘍との間に、薬剤感受性の大きな差があることが判明した。 〔考案〕こうした臨床例と、ヌード・マウス移植系腫瘍との、感受性の差の原因は、幾つか考えられるが、われわれはまず、血中濃度に注目した。今回、感受性の相違が認められたシスプラチンについて、血中濃度を測定してみた。臨床例では、現在用いられている投与法では、シスプラチンの血中濃度は、最高2μg/mlまでしか上昇せず、しかも排泄が遅かったのに対し、マウスでは、現在の投与量では、血中濃度は、5μg/ml以上に上昇し、しかも急激に低下することが判明した。これが、有効性の差の、最も大きな要因ではないかと考えられ、今後は、実験モデルにおいて、より臨床例における血中濃度に近くなるよう、投与量,投与方法を検討する必要があると考えられた。
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