研究概要 |
我々は本研究において脳死後の主要臓器機能に関し、種々の臨床的検討を行ってきた。63年度には、これまで行なってきた抗利尿ホルモンとカテコールアミンを栄時投与する方法により管理した脳死症例の肝、心、腎の病理組織学的変化についても研究を行い、臨床的検討と対比した。また、新たに内分泌臓器機能についても検討した。〈結果と考察〉1 病理組織学的変化に関しては、肝では脳死後時間が経過するに従い高率に細胆管炎がみられた。心では光顕的には心筋繊維の萎縮や肥大、細胞間浮腫がみられ、電顕上は経日的なミトコンドリアの障害と筋小胞体の拡張、筋原繊維の収縮などの所見が特徴的にみられた。腎では尿細管上皮の脱落以外には特異的な変化はなかった。これらの所見はこれまで報告してきた臨床的臓器機能と一致し、肝でみられた黄疸と肝道系酵素の逸脱は脳死後何等かの原因で起こる細胆管炎がその原因と考えられた。心機能は抗利尿ホルモンとカテコールアミンの投与により維持されてはいるが、脳死後には心筋細胞に形態的変化を伴い、その原因としては除神経、ショックによる心筋の代謝障害や循環管理のため投与したカテコールアミンそのものの影響も考えられた。腎機能は抗利尿ホルモンとカテコールアミンの投与により良好に維持できることを示してきたが、形態学的変化がほとんどないことからもこのことが裏付けられた。2 脳死後の脳下垂体前葉ホルモンの血中レベルは、ACTH,HGH,LH.FSH,TSH,プロラクチンの何れもが数日間にわたり検出されたこと、TRHの投与試験に反応し、血中TSH及びプロラクチンの分泌が証明されたことより、従来脳死後には廃絶するのではないかと考えられてきた脳下垂体機能が部分的に残存していることが明かとなった。このことは脳下垂体が脳ヘルニアの直接的圧迫を受け難いと言う解剖学的特徴に加え、その支配血管が必ずしも内頸動脈の硬膜内走行枝のみではないことからも理解可能である。
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