1960年Simpsonが重症筋無力症における胸腺異常に注目して自己抗体による神経筋接合部のブロックが病因とする自己免疫説を堤唱して以来、抗アセチルコリンレセプター抗体を中心とした液性免疫の研究が進んでいる。しかし手術後の予後を念頭に入れながら手術適応を定めるにあたり、術前の患者血中の抗AChR抗体の多寡、胸腺腫の有無、病悩期間等にはあまり左右されず、リンパ球を主体とする細胞性免疫が過活性化状態であった時は胸腺摘出が術後の症状寛解に与える効果が大なる事に気付いた。この胸腺を経路とするリンパ球活性化機序を解明する事が本症の成因、病態究明につながるものと考え、動物実験と二本立てで研究し以下の事実を見出した。 1)マウス胸腺中に強いリンパ球遊走因子が認められ、この活性は胸腺実質細胞、及びその培養上清中には存在するが、胸腺細胞、正常血清及び補体活性化血清中には認められない。 2)この因子はB細胞やリンパ節細胞には作用せず、胸腺細胞、末梢血及び脾のTリンパ球分画に作用し、濃度依存性に遊走活性を増す方向性をもった因子である。 3)胸腺抽出液をSephadex G-200カラムにかけ分画すると遊走能は3種のピークを示めし、PeakAはM.W.約125000、PeakBは約15000PeakCは約10000であった。 4)これらの遊走活性は56℃30分間加熱すると活牲を失なうが、37℃1hrでは失活しない。ヌトリプシン処理にて破壊される。 5)この遊走因子は既知のリンパ球遊走因子であるIL1やIL2、C5aとは異なるものと考えられる。 6)重症筋無力症患者胸腺中に強いリンパ球遊走活性が存在し、その因子の生物学的性格はマウスの因子と極めて類似しており、胸腺抽出液をSephadexG-100カラムにかけ分画すると同様に3つの遊走活性のピークを示した。 7)これらの遊走因子はリンパ球のsubpopulationのうち特にT細胞に対して強い遊走活性をもつ。
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