研究概要 |
進行胃癌では、漿膜浸潤陽性の場合の予後は悪く、再発形式としては腹膜転移が最も多い。その対策のためには腹膜転移の成立機序を解明することが重要である。胃癌における胃漿膜癌浸潤と腹腔内遊離癌細胞について検討した結果では、漿膜浸油面積が大きなほど遊離癌細胞の出現頻度が高く、癌細胞陽性例では高率に腹膜転移をきたすことが明らかにされている。一方、ヒト胃癌における腹膜表面の走査電顕による観察にて、肉眼的に腹膜転移がなくても、腹膜転移の前段階と考えられる漿膜細胞の変化が観察された。さらに、動物実験にてラット癌性腹水を遠沈した上清(液性成分)を非担癌ラット腹腔内へ注入すると、同様な漿膜細胞の変化がみられ、癌性腹水中に漿膜細胞の変化をきたす傷害因子が存在することが示唆された。この傷害因子を分折するため、ラット癌性腹水上清をSephadexG200で分子量にしたがってゲル濾過した結果、Fr【I】(フィブリン分画)Fr【II】(IgG分画)Fr【III】(アルブミン分画)Fr【IV】(以下の低分子量域)に分画された。名分画を非担癌ラット腹腔内へ注入し腹膜を観察した結果、Fr【III】,【IV】群に漿膜細胞の変化がみられ、特にFr【IV】群で顕著であった。そのため今回の検討では、低分子量域の物質の分析を目的に、腹水上清をSephadexG25で分画した。低分子量域は2つのピーク(Fr【I】´,Fr【II】´)に分画され、各分画を非担癌ラット腹腔内へ注入し腹膜への影響を観察した。Fr【I】´注入群では4例中2例(50%),Fr【II】´注入群では6列中2例(33%)に漿膜細胞の離開がみられ、Fr【I】´群の1例では細胞の脱落・基底膜の露出もみられた。マーカーによる分子量の同定では、Fr【I】´はBacitracin(分子量1450)より小さく、Fr【II】´はalanine(分子量255)とほぼ同じであった。以上より、腹膜漿膜細胞傷害因子は分子量約1000以下の物質で、ポリペプチドあるいは塩類類似物質であることが示唆された。
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