研究概要 |
胃癌では漿膜浸潤陽性例の予後は悪く,再発形式として腹膜転移が最も多い. 腹膜転移の成立機序を解明するため,胃癌における漿膜癌浸潤と腹腔内遊離癌細胞について検討した結果,漿膜浸潤面積が大きい程遊離癌細胞の出現頻度が高く,癌細胞陽性例では根治術後でも高率に腹膜再発をきたすことが明らかになつた. そこで我々は,腹膜再発防止対策として腹腔内遊離癌細胞あるいは腹膜微小転移巣に対してMMC,CDDP等の抗癌剤の腹腔内大量投与に腹腔内領域加温を併用した持続温熱腹膜灌流(CHPP)を考案し,漿膜癌浸潤胃癌に応用しているが,治癒切除例における5年生存率はCHPP施行群では58%で,非施行群の44%に比較して良好であり,CHPPの腹膜再発抑制効果が示された. 一方,漿膜浸潤を伴う胃癌例の腹膜表面の走査電顕による観察にて,肉眼的に腹膜転移が認められなくても腹膜転移の前段階と考えられる漿膜細胞の変化が観察された. そこで動物実験にて,ラット癌性腹水の液性成分を非担癌ラット腹腔内へ注入した所,同様の漿膜細胞の変化がみられ,癌性腹水中に漿膜細胞の変化をおこす傷害因子が存在することが示唆された. この因子を分析するためラット癌性腹水上清をSephadex Gー200でげル濾過した所,Fr.I〜IVに分画され,各分画を非担癌ラット腹腔内へ注入した結果,Fr.III(アルブミン分画),Fr.IV(以下の低分子量域)注入群に漿膜細胞の変化がみられ,特にFr.IV群に顕著であつた. そこで低分子量域の分析のため,さらにSephadex Gー25を用い腹水上清をPBS(PH7.4)で溶出すると,低分子量域はFr.I'〜IV'の4つのピークに分かれ,分子量は450〜1060であつた. 各分画を非担癌ラット腹腔内へ再注入し腹膜漿膜細胞を走査電顕で観察すると,Fr.II'IV'注入群で漿膜細胞が傷害されていた. よつてこの液性因子は分子量1000以下のFr.II',IV'の分画に存在しており,ペプチドあるいは塩類類似物質ではいかと推察された.
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