研究課題
心臓リンパは冠循環の病態生理を忠実に反映することが知られている。今年度は冠動脈閉塞による心筋梗塞を作成し、梗塞範囲と心臓リンパの動態の関係を検討した。実験は雑種成犬を用い、左冠動脈前下行枝根部結紮群(LAD群)、左冠動脈回旋枝根部結紮郡(LCX群)、対照群の3群に分けた。心臓リンパ液は心蔵リンパ節輸入リンパ管から採取し、経時的に流量を測定した。心臓リンパ及び血清中の蛋白、電解質濃度、逸脱酵素、浸透圧値を冠動脈閉塞前後で比較した。LAD群、LCX群では1時間の前値測定後冠動脈を結紮し、4時間の測定後心臓を摘出し、左室を0.5cm間隔の切片として、梗塞領域の面積をTTc(Triphenyl tetrazolium chloride)染色にて測定し、左室重量に対する割合を算出した。対照群では冠動脈閉塞は行わずに同様の測定を5時間行った。心電図、動脈圧、左室dp/dt,心拍出量、中心静脈圧を測定、記録した。梗塞領域はLAD群で圧室重量の16-21%、LCX群で33-42%であった。経時的リンパ流量は対照群ではほぼ一定の値を示した。冠動派閉塞群ではリンパ流量は冠動脈閉塞後漸増し、LAD群では前値に比し冠動脈閉塞90分後より有意に増加した。LCX群では前値に比し30分後より有意の増加を示した。梗塞領域増大につれてリンパ流量も早期より増加した。リンパ中の逸脱酵素は冠動脈閉塞後漸増傾向にあった。リンパ液のカリウム濃度は冠動脈閉塞により有意に増加した。LCX群では冠動脈閉塞により動脈圧、心拍出量、左室dp/dtはいずれも有意に低下し、中心静脈圧は有意に上昇した。以上の結果より、心筋梗塞という心筋障害を心臓リンパが忠実に反映していることを表わしており、冠動脈閉塞から心筋梗塞に至る冠循環の病態生理を心臓リンパを介して解析しうることが判明した。梗塞の病態には梗塞周辺の虚血領域も関与すると考えられ、心筋組織血流との関連を含め今後の検討課題としている。
すべて その他
すべて 文献書誌 (5件)