研究概要 |
昭和61年度は日本猿の入手に難渋し9月に入って初めて実験に着手することができた. 初めは, 猿や人工肺の使用を倹約するため, 血液ドナーとしての猿を使用せず, また一つの人工肺を数回の実験に使用した事や手技的な問題から移植手術後の出血をコントロールし得ず, 人工心肺からの離脱ができなかった. しかし, これらの問題点を解決し得てからは, 人工心肺からの離脱は容易となった. 人工心肺からの離脱が可能となった次には, 移植臓器の保護の問題が発生した. 心臓に関しては, 現在臨床で用いているGIK液を使用し良好な結果を得た. すなわちPaO_2が良好に保たれているかぎり, 心機能も良く保たれた. 肺に関しては, 初期に行った単純な冷却法では術後早期に無気肺, 実質内出血, 肺水腫を呈し, 呼吸機能検査ではレスピレーターの回路内圧の上昇, 呼気終末CO_2の上昇, PaO_2の低下を示した. このため手術手技的に, 心肺摘出, 移植手術中の肺の保護と, 東北大学から報告されている肺保護液(Ep3液)を使用するようになって移植術後の肺の状態が著明に改善された. これらの心臓及び肺を組織学的に検討した結果でも明らかな改善が認められた. 本実験での最長生存時間は44時間であり30時間台が2例, 他は24時間以内に失った. 長時間生存例での検討のため, 一側肺同所性移植と心臓異所性移植とを同時に行った. 神経切断が行われた. 心臓及び肺に分布する神経繊維を酵素組織化学的に観察した結果, 末梢神経繊維は移植後5〜7日目でも酵素活性を保って正常例とほとんど差を認めることなく存在することが判明した. また, 移植心の拒絶反応の早期診断法の研究として, 異所性移植心の酵素組織化学的検討を行うと共に, 予備的研究としてモノクローナル抗体の二重染色法を用いて末梢血リンパ球サブセットの変化をも検討した.
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