研究概要 |
人間の基本的行動のひとつである歩行は、人間が社会生活を営む上で単に移動能力と言う以上の極めて重要な役割を持っている。特に老人においては、骨折などを契機として歩行不能となり、寝たきりになった場合には心肺機能の低下,肺炎,膀胱機能障害,老人性痴呆などを起こし、天寿を全うすることなく他界する場合も多い。そしてこれらの寝たきり老人のみならず、脊髄損傷や脳卒中によって歩行困難となった患者の多くは以前のように歩きたいという切実な願望を抱いている。しかし、高齢化社会を迎えようとしている日本の将来を考えると、患者の介護や訓練に携わる人手の高齢化と若者の減少は明らかであり、患者の将来は決して明るいものとは言えない。われわれはこれらの患者に対する、より効果的,かつ効率的で早期社会復帰と自立を目的とした歩行訓練用ロボット(AID-1)を開発してきたが、昭和61年度科学研究費補助金の交付を受け、AID-1を用いて、臨床例の試験的訓練と評価を行なうと共に、より高度な機能を付加するため、昭和61年度は荷重負荷自動初期設定装置を組み込んだ。そして、その開発経過と臨床応用に関して、第12回関東整形災害外科学会,第24回日本人工臓器学会,第14回日本リウマチ・関節外科学会,第4回日本ロボット学会に発表した。また国際保健福祉機器展'86に招待特別展示された。本装置を用いて実際に訓練を行なったのは44症例である。これらの訓練を通じて臨床上の問題点の把握と訓練に際しての安全性を確認したが、問題点として、老人性亀背など体幹の変形を有する患者では、体を牽引・保持する機構部分に問題があり、疼痛を訴えることもあった。その対策として一時的にタオル等を捜入したが、本機構を改良する必要性がある事などが分かった。なおこれらの発表・展示を通じて、学会員ならびに一般から多大の関心と期待が寄せられたことを付記する。
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