研究概要 |
62年度は科学研究費交付2年目にあたり, 伊藤らがヒトにおける重度低酸素症の病態生理の総説を紙上発表した(日本医事新報). 本年度は虚血による脳浮腫の発生に, 虚血後の血流再開がどのように影響するかを調べた. ラットで右頚動脈を結紮し, 5%酸素,95%窒素を20分間吸入させた群と低酸素負荷時のみ頚動脈を遮断した群における生存率, 神経学的所見に有意差はなかった(学会発表, 論文準備中). しかしこのモデルを評価するにあたっては脳血流を測定することが必須であるが, これら小動物における脳血流の連続的な測定には技術的に困難な点も多いこと, また共同利用施設に高性能の画像解析装置が導入され, 我々の脳低酸素症の病態解明の研究に有用であることが解ったので, この方面でのアプローチを先行させることとした. 核は蛋白合成等, 細胞における機能の総元締であり, 脳虚血による細胞障害は, 細胞質ではミトコンドリアの腫大, 粗面小胞体の空胞化として, 核においてはクロマチンの凝集, 核小体の不明暸化が云われている. 今回, 画像解析装置を用い, 核の形態を数値化し, その細胞内外の障害度と関連づけて検討した. 15分間の5%酸素,95%窒素吸入とともに一側の頚動脈を遮断する実験モデルを用い, 回復後6時間後の大脳皮質の電顕試料を写真撮影し, 画像解析装置で変形度(form factor,FF)を求めた, 低酸素を負荷しない対照群のFFは18.89±9.45,hypoxia群のFFは24.12±12.51で両群間に有意差があった. hypoxia群の核膜は全周にわたって大小様々なしわ状の変化を形成しており, これがFFを増加させる主な原因と思われた. hypoxia群では核の機能低下が起こり核自身が萎縮することで, あるいは細胞質の萎縮や細胞外の浮腫がさきに起こり細胞内外の外力で核が圧迫されて, 核は様々な変形を起こすものと推測された(日本麻酔学会発表予定, 63.6, 金沢, および投稿準備中).
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