研究概要 |
正常ヒト胎児と中枢神経系の異常を有する胎児(全前脳胞症, 水頭症など)を対象として行動を観察し, 両者を比較することにより行動と中枢神経系の関連性を解明することを目的とした. 1. 正常例 呼吸様運動は妊娠後半期は増加傾向を示し妊娠32〜35週頃ピークを形成する. 躯幹運動は妊娠中期に高くそれ以後減少傾向にある. 急速眼球運動は妊娠末期まで増加傾向を示す. 呼吸様運動と急速眼球運動との一致性は妊娠経過により有意な変化は認められない. 2. 全前脳胞症・単眼症 妊娠37週1日に行動を観察し, 妊娠36週〜40週の正常例と比較したところ躯幹運動と急速眼球運動は統計的に有意に低値を示した. 各行動の一致性を比較すると, 呼吸様運動と急速眼球運動・躯幹運動と急速眼球運動はいずれも一致性の低いことが明かとなった. 剖検による中枢神経系の所見では小脳・脊髄の発達は比較的良いが, 脳幹の発達は乏しく大脳皮質はほとんど形成されていなかった. 3. 水頭症・18trisomy 妊娠34週5日に行動を観察し妊娠32〜35週の正常例と比較すると呼吸様運動と急速眼球運動が少なく躯幹運動は多いことが明らかとなった. 呼吸様運動と急速眼球運動・躯幹運動と急速眼球運動はいずれも行動の一致性に正常例と差が認められなかった. 4. まとめ 全前脳胞症では呼吸様運動は低値ではあるが正常範囲内であり, 呼吸様運動の直接的中枢である延髄は形成されているものと思われる. 躯幹運動や急速眼球運動並びに各行動の一致は延髄より上位の神経系に支配されていることが示唆される. 水頭症では躯幹運動が増加しておりこのことは脳圧亢進による上位中枢抑性機構の機能低下によるものと思われる. 各行動の一致性が保たれていることは運動中枢間を統合する機構は形成されており, その機能は水頭症により低下していないことが示唆される.
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