研究概要 |
癌末期患者の血清中より赤血球に対する機能障害誘発物質(AIS)を分離し、それが与える赤血球への障害性並びに細胞性免疫能への抑制効果について検討を加えた。その結果、(1)AISは赤血球内ATP産生能に影響を与え、その結果赤血球変形能および侵透抵抗を低下させることを明らかとした。さらに(2)AISは赤血球膜と強い親和性を持ち、癌患者血清を数度の正常赤血球で吸着処理することにより本物質が除去されることを認めた。(3)処理後の血清には、細胞性免疫能(T-cell mitogen反応性・MφのIL-1産生能)の抑制作用が消失することを認めた。次に、(4)家兎を免疫し抗AIS抗体を作製した。(5)本抗体を用いて間接蛍光抗体法により各種婦人科疾患患者の赤血球膜AISを検討したところ、健常人では全例陰性であり、子宮筋腫,卵巣彙腫などの良性腫瘍患者も、全例陰性であった。一方子宮頚癌患者では、上皮内癌0/6,【I】期0/9,【II】期0/9,【III】期5/6,【IV】期+再発例9/9が陽性であった。卵巣癌患者では【I】期0/2,【II】期0/2,【III】期6/9,【IV】期十再発例11/11が陽性であった。その他子宮肉種2/2,絨毛癌2/4外陰癌1/3に陽性を認めた。以上AISは、初期悪性腫瘍には陽性例は認められなかったが、癌の進行に伴いその陽性率が高くなることが明らかとなった。さらに組織型および臓器特異性は認められず、再発症例では全例陽性を示した。また、(6)進行癌患者のリンパ球、マクロファージにもAIS局在を認めた。(7)抗AIS抗体を用いた免疫組織学的検討により癌細胞に一致したAISの局在を認めた。(8)抗AIS抗体をリガンドとするアフィニティクロマトを用いてAISの分離精製に成功した。(9)AIS陽性患者に手術療法・放射線療法を施行し、12例にその陰性化を認めた。(10)現在モノクレーナル抗体を作製中であり、完成しだい抗体の量産化およびplasma pheresisに関する基礎的検討に入る予定である。
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