研究概要 |
歯周組織の再生は歯牙と歯槽骨が結合織性に結合することによってはじめて可能となる. 近年, 結合織性結合と関連して注目を集めているのが接着性糖蛋白であるフィブロネクチンと線維芽細胞に対して化学的走性を示すI型コラーゲンである. 我々は以下に延べるような実験を行い, フィブロネクチンと線維芽細胞およびコラーゲンとの相関について若干の成績を得ることができた. すなわち, 培養したヒト歯肉の線維芽細胞上に種々の処理(フィブロネクチンのコーティング, 未処置の歯根, 歯根表面の軟組織を除去, 歯根セメント質を除去, さらにクエン酸処理)を施した歯根の輪切りを載せ, 歯根の輪切りに対する細胞の動態を検索した. その結果, 歯根をクエン酸処理し, 表面にセメント質ないし象牙質基質が露出した群, およびフィブロネクチンをコーティングした群では, 未処置の群に比べて細胞が顕著に歯根に向って移動し, 密に配列していた. このことから, ヒト歯肉由来の線維芽細胞はI型コラーゲンとフィブロネクチンに対し, 強い化学走性をもつことが示唆された. さらに, 歯周治療に際し, これらの物質を応用することにより, より速やかに歯根表面に線維性の結合を獲得できるものと考えられた. 歯周組織の障害時に出現するフィブロネクチンの局在について免疫組織化学的方法により検索したが, フィブロネクチンの明らかな陽性反応は見られなかった. これは炎症によりフィブロネクチンの出現が抑制されたためと考えられた. また, 長い付着上皮様細胞のセメント質に接する部では部分的にラミニン陽性を示した. さらに歯根に向って移動する細胞は電子顕微鏡的には核の細胞膜に占める割合が大で, 小器官の発達は一般に悪く, いわゆる未文化な細胞の特徴を備えていた. しかし, 長い付着上皮様細胞と結合織性付着との相関については明らかにすることはできなかった.
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