研究概要 |
本研究の目的は、唾液腺に含まれる既知ならびに未知の種々の"生理活性物質"が口腔諸器官の発達,機能におよぼす影響を明らかにすることである。初年度においては、ラット顎下腺を摘出,導管結紮あるいは支配神経切断を行った際、動物の発育や味覚におよぼす影響について調査した。併せて、顎下腺自体の発達に関する実験も行った。 ラットの顎下腺を生後2週以内に摘出した場合、約50%が術後7日以内に死亡した。生存する動物の体重増加はシャム手術したものや無処置のものに較べ低い傾向が認められた。一方、舌下腺摘出動物の生存率,体重増加は対照群と差がなかった。これらの結果から、顎下腺に特異的に存在する"発育因子"のような物質が示唆されたが、この点をより明確にするため、内分泌学的および栄養学的手法を含めた方法で種々検討中である。また、顎下腮摘出,導管結紮あるいは支配神経切断処理したラットを用い、各種味刺激に対する応答を行動学的ならびに神経生理学的方法により調査している。 ラット顎下腺のアンドロジェン応答能は、幼若時より血中に存在するアンドロジェンに慢性的にさらされることにより高まることがアンドロジェン依存性エステロプロテアーゼを指標として明らかとなった。このことはアンドロジェンリセプターの5α-ジヒドロテストステロン結合能やテストステロンおよび5α-ジヒドロテストステロンのラジオイムノアッセイの結果からも支持された。さらに、ラット顎下腺のアンドロジェン応答能は鼓索神経切断により高まることが示唆された。これは顎下腺でのアンドロジェンの作用を自律神経系が修飾している可能性を示すもので興味深い。現在、この点を明確にするため、予め鼓索神経を切断した動物の顎下腺におけるステロイド代謝を調べている。
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