咬合異常が原因で胸鎖乳突筋に痛みを訴える者がおり、これらの患者の咬合を修正することより、胸鎖乳突筋の疼痛の治癒する症例のあることが知られている。このような臨床的な経験から、咬合と胸鎖乳突筋との関連が示唆されてはきたが、咬合機能時の胸鎖乳突筋の活動様相については、いささかの報告はあるものの、その実体は不明確な部分が多い。そこで胸鎖乳突筋の活動と咬合機能との関連を明確にすることを目的として、正常機能者6名の胸鎖乳突筋の活動を筋電図学的に記録し、これを下顎運動の様相と共に検索して、咬合の異常により胸鎖乳突筋に発症する疼痛の原因について追求した。その結果、以下のことが明らかとなった。 1.頭部の前屈や旋回時には、胸鎖乳突筋停止部と中央部では、ほぼ同等の活動を示す。しかし、タッピング、クレンチングや咀嚼時には筋停止部に活動が見られ、筋中央部にはほとんど認められない。 2.歯に加わる咬合力が増大すると、胸鎖乳突筋の停止部より記録される活動も増大する。 3.咀嚼時には、胸鎖乳突筋停止部に咀嚼リズムに同期した活動がみられその活動は作業側の筋において非作業側の筋より優勢である。 4.咬合機能時に活動のみられる胸鎖乳突筋停止部は、顎機能異常者にみられる疼痛好発部位と一致するということから、この筋の咀嚼活動に対する寄与が確認できた。
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