研究概要 |
ラット肝マンナン結合タンパク質(MBP)はマンノース・N-アセチルグルコサミンに特異的なレクチンであり、分子量32,000のサブユニットの6量体である。本年度はこのMBPの一次構造を遺伝子操作を利用して決定した。まず、発現ベクター入gt11に組み込んだラット肝cDNAライブラリーを、アフィニティー精製した抗ラットMBP抗体によりスクリーニングし、ラット肝MBPcDNAを単離した。この約850塩基より成るcDNAは、タンパク化学的に決定した肝MBPのN末端構造に対する合成cDNAとハイブリダイズし、肝MBPの全ペプチド部分をコードしていた。そこでこの塩基配列をジデオキシ法により決定し、ついて塩基配列をもとに成熟肝MBPおよびプレ肝MBPの全アミノ酸配列を決定した。成熟肝MBPはGluをN末端AspをC末端とする226個のアミノ酸からなり、プレ肝MBPではこのN末端に更にMetに始まる18個の疎水性アミノ酸に富むシグナルペプチドが結合していた。なお、分子内部には膜貫通タンパク質にみられる疎水性領域はみられなかった。肝MBP分子の一次構造上の最大の特色はN末端半分にコラーゲン様構造をもつことである。すなわちGly20からSer78までの間にGly-X-Yの構造が19回繰り返していた。典型的なコラーゲン分子ではX,Yにプロリン,リジンが多く含まれるが、ここでも同様の特色がみられた。このような一次構造をもつペプチド鎖は二次構造としては折り返し構造をもち、また、3本のペプチド鎖が集まり三重ラセン構造を形成し安定化することが知られている。MBPもこのコラーゲン様部分で三重ラセン構造をとり多量体を形成している可能性が強い。このように分子内にコラーゲン様構造を含むタンパク質は珍らしく、補体成分Clq,アセチルコリンエステラーゼ,コングルチニン,肺の界面活性タンパク質などに知られているのみである。
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