研究概要 |
1.マウス形質細胞腫のmvc遺伝子発現:マウス形質細胞腫S194は、免疫グロブリン遺伝子と組換えをおこしたrearrange型およびgerm-line型の二つのmvc遺伝子を持つ。そして血清濃度や温度条件の違いによる細胞の増殖速度や細胞周期の変化とは無関係に、前者は高く後者は低く固定化した発現異常を示し、このことがS194の腫瘍としての異常増殖に重要な役割を持っていることが示唆された。 2.正常復帰細胞株における検索:ヒトの膀胱癌から得た活性化ras遺伝子により癌化したNIH/3T3マウス細胞に変異原物質を与えて正常復帰変異株R1を得た。このR1は試験管内での増殖が非常に遅く、生体での腫瘍増殖能を失った。しかしras遺伝子の発現は親株と変わりなく、NIH/3T3の腫瘍増殖にはras遺伝子以外の因子が必要であることがわかった。 3.悪性黒色腫におけるras遺伝子産物の発現:ras遺伝子産物p21に対するモノクローナル抗体を4種作製し、これらの抗体を用いてヒトの悪性黒色腫と色素性母斑におけるp21の発現について検討した。この結果9例中5例の悪性黒色腫でp21の産生増加がみられたが、5例の色素性母斑ではこのような増加が証明されず、p21が半数以上の悪性黒色腫の増殖に関連のあることが示された。 4.皮膚腫瘍および乾癬における検索:悪性黒色腫4例,基底細胞癌,有棘細胞癌各1例,良性腫瘍2例,尋常性乾癬8例,色素性母斑3例,正常表皮組織7例について、細胞の増殖や分化と密接に関連する遺伝子H-ras N-ras,mvc,fosの転写活性について検討した。この結果正常表皮では、mvc,fos遺伝子の発現に同調がみられるのに対し、腫瘍や乾癬組織では、これらの発現に不均衡がみられた。
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