研究概要 |
昨年度に引き続き, ブタ卵子透明帯の糖鎖構造の詳細な決定, および受精において機能する構造の検索を行なった. 特に本年度は, 受精に関与する分子を定量性をもって調べることのできる実験系の作成に重点を置いた. 昨年度までは生物学的な系を用い, 新鮮な卵子, 精子間の結合系に部分精製した糖鎖を加え, その結合阻害能を顕微鏡下で観察する方法を取っていたが, この方法ではブタの系の場合, マウスと異なり, 新鮮な, 生存率の高い配偶子を実験に供するために多大な労力と困難が伴う. しかも定量が明確でなく, 細かく分類した糖鎖の受精における阻害能を検討していくのに耐え得る実験系ではないことが半明してきた. そこで, 受精という生物学的現象を分子と分子との結合として考え得る生化学的な実験系の開発を試みた. すなわち, 受精能を獲得させた精子の表層タンパクに放射性ヨードを標識し, その後に表層タンパクを可溶化し, このなかより透明帯に結合する分子の精製を試みた. この結果, デキストラン硫酸に強く結合する分子に強い透明帯結合活性があることを見出した. このタンパクは分子量約15000ダルトンおよび30000ダルトンを示すことが, SDSーPAGEおよびその後のオートラジオグラフィにより判明した. これらはいずれも同程度の強さの透明帯結合活性があり, またこの結合活性は同程度にEDTAにより阻害されるので, モノマー, ダイマーの形をとっている可能性がある. 一方透明帯分子については, すでに精製の方法を確立しているので, 現在, この双方精製された分子間の結合系において, これに阻害をかける糖鎖構造の特定を急いでいる. 子宮内脱落膜細胞の放出する免疫抑制物質については, すでに精製が終わり, その生物活性の機構の解明を行なっており, 細胞増殖の際に働く基本的な遺伝子であるCーmycの発現を抑制することが示された.
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