研究概要 |
本年度は次の二点について成果をあげた. (1)マイクロセル導入法によるファンコニ貧血症(FD)由来線維芽細胞のマイトマイシンC(MMC)誘発染色体異常の正常化に関する研究:マイクロセルはマウスおよびヒト株化細胞より分離したものを,FA細胞に融合し,融合後経時的にMMC処理を行い,どのような染色体が導入されたときに,FA細胞の染色体異常が抑制または正常化されるのかを分析した. ヒトのみならずマウス染色体の導入によりFAの染色体異常頻度が低下し,正常細胞のそれと同レベルまでに下ることが認められた. しかし,ヒトおよびマウスともに,導入され正常化をもたらす染色体は,複雑な転座をおこした異常染色体であったためその由来を織別・同定することはできなかったが,単一染色体導入により正常化されたことは,この染色体上にFAのMMC誘発染色体異常を正常化する因子または遺伝子が存在するものと考えられ,現在その正常化遺伝子の座位する染色体の同定を行っているところである. これらの結果から,FA細胞に対する正常化遺伝子はマウス染色体にも存在することから正常化に関しては種を問ず同様な作用機序をもっているもの考えられる. (2)細胞周期に関与する遺伝子クローニングおよびそのマッピング:ハムスター由来温度感受性細胞株でG1からSにかけての細胞周期停止する変異細胞にヒトの高分子DNAをトランスフェクトし,その停止を回復するDNAを分離した. このDNAはX染色体上に存在する56KbのDNAセグメントであり,Xpter→q21部位に存在することが分った. すなわち,ハムスターの細胞周期を調節する遺伝子がヒトX染色体上に存在することが分ったのである. これがヒトにおいても同様な作用をもたらすか,今後の検討を要するところである.
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