研究概要 |
本年度は,日本人の患者群での薬動力学パラメータをコンピュータープログラムNONMEMを用いて算出し,その平均値とバラツキを用いベイズ理論によるパソコンプログラムにて患者個人のパラメータを推測し,薬物投与設計の個別化に役立てる方法論を実践した. 薬物として,大部分が腎臓で排泄される新規アミノグリコシド抗生物質二剤,大分部が肝臓で代謝される抗不整脈剤リドカインを選んだ. 抗生物質については健常人の薬物動態のみを検討し,腎機能障害者のそれは文献より引用した. 二剤とも個人の薬物クリアランスはその人のクレアチニンクリアランスに良く比例した. 従って,患者のクレアチニンクリアランスが解れば薬物の体内動態が良く予測できた. 又,本剤の毒性発現に関与すると思われる末梢分画中の薬物量を血中濃度より予測するためのノモグラムを作製し,本剤の投与設計のための方法論を確立できた. リドカインについては,浜松医療センターCCUにて不整脈の予防或いは治療のために本剤を投与された53名の患者において投与開始後2ー4時間,12時間,24時間の血中濃度を測定し,前者より後二者を予測する事を試みた. このためのベイズプログラムにはスイス人の薬物動態パラメータを用いたが,その予測値は実測値とよく一致した. これらの血中濃度データをNONMEMを用いて解析し,日本人でのパラメータの平均値とバラツキを求めた. この値をベイズプログラムに組み込んで,新たに12名の患者で本剤投与開始後2時間の血中濃度を測予し,その値より患者のパラメータを予測し,12時間後,24時間後の血中濃度を有効で安全な治療域に入れることを試みた. 12時間については全例,24利間については一例を除いて治療域に入れることができ本方法論の臨床応用が可能であることを示した.
|