1.これまで報告のなかったラット脊髄腰膨大部後角組織のinsitu灌流法の確立のため、27ゲージの注射針2本の先端をけずって曲げ、切断面を向かい合わせになるようにして両者を固定したものを考案した。 2.対照および慢性疼痛モデル動物:アジュバント関節炎ラットの腰膨大部を局所灌流した灌流液中のサブスタンスPをラジオイムノアッセイ法で定量したところ、アジュバント関節炎ラットでの自発性遊離量は対照ラットのそれに較べて1.34倍と有意に多かった。さらに、対照ラットでは痛み刺激とならない足首関節の屈伸刺激によりサブスタンスP遊離量は変化しなかったが、アジュバント関節炎ラットでは痛み刺激となる当該刺激によりサブスタンスP遊離量は著明かつ有意に増加することが判明した。これらの結果は、アジュバント関節炎時の慢性痛の形成に一次知覚神経中のサブスタンスP含有神経の活動の亢進とそれに伴う脊髄後角における遊離増加が大きく関与していることを明らかにした。 3.対照ラットおよびアジュバント関節炎ラットから脊髄後角組織切片を作成し、その組織内サブスタンスP含有量を調べたところ、後者のラット、とくに、最も痛みの感受性が高まっている時期の後角内サブスタンスP含有量は対照ラットのそれよりも減少していた。一方、同時期に後根神経節中のサブスタンスP含有量はアジュバント関節炎ラットの方が有意に多かった。さらに、軸索輸送阻害薬コルヒチンを処理するとアジュバント関節炎ラットの後根神経節中のサブスタンスP含有量の有意な増大が認められた。以上の諸結果により、アジュバント関節炎ラットにおいては疼痛刺激によりサブスタンスP含有一次知覚神経が持続的に活性化され、生合成、軸索輸送、脊髄後角内終末からの遊離促進が起っており、慢性疼痛の形成に重要であることが明らかとなった。
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