研究概要 |
レチノイドの広範な生理作用を解明する上で, レチノイドそのものの分布を明らかにすることがまず必要と思われるが, 現時点では組織中の全レチノイドの詳細な分析は困難である. 我々はレチノイドの作用発現機構解明へのアプローチとして, レチノイドの生理作用に深く関与すると考えられるレチノイド結合蛋白の各組織, 細胞内局在の検索を主要な目的とし, 以下の成果を得た. 1.ヒト胎盤から細胞内レチノイン酸接合蛋白(CRABP)と細胞内レチノール結合蛋白(CRBP)を純化し, 一部性状を明らかにした. 2.ヒトCRBPのラジオイムノアッセイの開発により, 肝癌組織内CRBP濃度が, レチノイドの濃度と共に, 健常部に比べ低下することを示した. 3.サカナ(メバチ)の網膜から, CRABP, CRBPおよびCRBP(F)の単離, 精製に成功した. 4.上記サカナCRABPに対する抗体の作製に成功し, ラットとヒトのCRABPにも特異性を示すことがわかり, 現在測定系の作製と免疫組織化学的検索を行っている. 5.ラット精巣上体にのみ, 限局して存在する新しいCRABPを発見した. 一部性状の解明から, 本蛋白は従来報告されているいかなるレチノイド結合蛋白とも異なり, 精巣上体上皮から, 精巣上体管腔に分泌されるという極めて特徴的な分布を示すことなどを明らかにしている. 以上の成果に加え, 血漿中レチノール結合蛋白(RBP)の肝臓実質細胞内の合成分泌過程および, 腎臓近位曲尿細管による異化過程を, 免疫電顕により詳細に明らかにした. さらに, RBPの合成過程において, 小胞体からゴルジ装置へのRBPの移動に際し, ビタミンAが必要であることを, 直接, 形態学的に明らかにした.
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