研究概要 |
当教室で見出した骨格筋中に空胞形成の認められる緩徐進行性の筋弱力症を発現する突然変異体マウスに就いて組織学的生化学的検索を行い以下の結果を得た。 1.光顕レベルの組織学的観察によって空胞中の物質は脂質を含む蛋白質からなる筋組織由来の構造物が変化したものである事が確かめられた。又空胞は特定の筋のみでなく多くの骨格筋で認められ筋束の末端部に多発していた。 2.電顕的観察により空胞部にtubular aggregatesが多数存在し、その中にはlamella構造をしたいわゆるmyeloid bodyと思われる物質が混在している事が認められた。 3.血液中に含まれるアミノ酸の組成をしらべたところ正常マウスとは著しく異っており、バリン,ロイシン,フェニルアラニン,リシンなどの含量が有意に増加している事が判った。この変化はdyマウスmydマウスなど他の筋ジス・マウスでの変化と類似しており、筋疾患に共通した変化と思われる。 4.アルカリ(pH9.0)側に至適pHの在るプロテアーゼ活性が8ヶ月令以降の変異体マウス後肢筋において著しく上昇する事が認められた。この活性は基質特異性阻害物に対する感受性などからキモトリプシン型の酵素に由来するものと推定される。又活性が上昇する時期が空胞形成が認められる時期とほぼ一致する事から、空胞形成に何等かの関与をしている事が考えられる。 5.血清中,骨格筋中,腎臓中のγ-GT酵素の活性を測定した結果、対照マウスに比較して変異体マウスで有意に活性上昇している事が認められた。この事からこの変異体マウスでは一般的な膜の機能異常が存在する事が推測される。以上の結果からこの変異体マウスの骨格筋では細胞膜,或いは細胞内膜構造物,特にエネルギー生産系に構造的欠陥があり、そのため空胞が形成される事、又その結果エネルギー供給が不充分になる偽、筋の弱力化が進行するものと結論された。
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