当研究室で、雄では90%の高率で糖尿病を発症するが、雌ではほとんど発症しないチャイニーズハムスターの系統を新たに近交系として確立した。発症における雌雄差には性ホルモンが関与せず、副腎皮質ホルモンの関与が示唆され、今までに確立されている糖尿病モデル動物とは異なる特性を有する可能性が考えられた。本年度はこの糖尿病系統と対照系統を用いて、糖尿病の進展に至る過程での下垂体の組織学的変化、副腎皮質束状層の電顕的変化を明らかにする。さらに、3カ年間の総括を行い、糖尿病発症機構における副腎の役割と意義を明らかにし、糖尿病モデル動物としての有用性を考究することを目的とした。 1.糖尿病系統の雄について、発症前、発症後、病期の進展した時期にAnti-ACTH血清を用いて免疫染色を施したが、いずれの時においても対照系統と染色性に差異が認められなかった。なお、糖尿病系統の雌についても同様であった。 2.糖尿病系統の発症直前、発症後の雄およびそれらと同月齢の対照系統の雄を用い、副腎皮質束状層を透過型EMにて比較観察したところ、糖尿病系統の雄では管状滑面小胞体の著明な発達が認められた。なお、糖尿病系統の雌では、雄に認められた変化が観察されず、対照系統の雌雄と同様のEM像を示していた。 3.3カ年間の総括:新たに確立したチャイニーズハムスターの糖尿病系統における発症率の雌雄差には、性ホルモンが関与せず血中グルココルチコイドレベルの上昇が大きな役割を担っていると考えられた。ACTHレベルと脳下垂体の組織学的観察に変化が認められなかったことから、副腎皮質束状層の細胞に何らかの遺伝的障害の存在が示唆された。以上の特性を有する糖尿病モデル動物の報告はなく、貴重なモデル動物といえよう。
|