当研究室で、雄では90%の高率で非肥満、ケトン尿を伴わない糖尿病を発症するが、雌ではほとんど発症しないチャイニーズハムスターの糖尿病系統を近交系として確立した。発症における雌雄差には性ホルモンが関与せず、副腎皮質ホルモンの関与が示唆され、今までに確立されている糖尿病モデル動物とは異なる特性を有していることを明らかにしてきた。そこで本研究では確立した糖尿病の系統を用い、糖尿病の発症に導く因子としての副腎皮質ホルモンの役割と意義を明らかにし、新たな糖尿病モデル動物としての有用性を考究することを目的とした。糖尿病発症前の雄での血中コルチゾールレベルは、同月令の対照系統の雄と糖尿病系統の雌に比べ有意な高値を示した。さらに、雄では発症例後も高値であった。発症雄を用いて副腎摘出を行ったところ、軽症群では全ての固体に血糖値の低下、尿糖陰性、耐糖能の正常化を認めた。しかし、重症群では副腎摘出による症状の改善はみられなかった。副腎摘出後の膵インスリン含量は偽摘出群(尿糖陽性)のそれに比較し有意な高値であった。B細胞の免疫染色結果もこのことを裏付けていた。糖尿系統の雄の副腎束状層は同月令の対照雄と糖尿病系統の雌に比べ組織学的には核の肥大、電顕的には管状滑面小胞体の著名な発達が認められ、hyper Activeな状態にあった。糖尿病系統の雄の血中ACTHレベルは、発症前、発症後、病期の進展したいずれの時期においても、同月令の対照系統の雄と比較して有意差がみとめられなかった。このことは、下垂体のAnti-ACTH血清を用いた免疫組織学的結果からも、裏付けられた。以上、新たに当研究室で確立したチャイニーズハムスターの糖尿病系統における発症には、副腎皮質ホルモンが重要な役割を担っていることが考えられた。この系統は糖尿病モデル動物として有用性が高いと思われる。
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