1.胎盤組織を【^(14)C】-ロイシン又は【^3H】-グルコサミンと共に培養し、放射能標識したフィブロネクチンを分離した、その結果、フィブロネクチンは培養上清には検出されず、従って組織で合成・保持されていることがわかった。糖ペプチドを調製し、レクチンとの反応性を調べた結果、血漿のものとは異なっていることがわかった。以上より、組織フィブロネクチンは血漿由来でなく、組織独自に合成、保持されていることが明らかになった。 2.胎盤組織のフィブロネクチンを酵素抗体法で組織化学的に検索した結果、血管内皮細胞、繊毛間質細胞および細胞増殖巣の未同定細胞にフィブロネクチン産生像が得られた。この結果は1の生合成実験の結果と一致するものである。 3.酵素抗体法による組織検索の結果は、フィブロネクチンが胎盤絨毛組織形成に重要な役割を果していることを示唆した。すなわち、細胞増殖巣では細胞周囲全体にフィブロネクチンが存在し、一方、増殖を止めて一層の秩序ある細胞層を形成しているサイトトロホブラストは絨毛上皮基底膜側でのみ、そこに存在するフィブロネクチンに接していた。このことから、細胞のフィブロネクチンレセプターの局在化が細胞活動に影響を与えると考えられた。 4.細胞外マトリックス成分が細胞に与える影響について調べるためケラチノサイト培陽系で実験を行なった。その結果、フィブロネクチンや【I】型コラーゲンは細胞増殖を促進し、基底膜成分であるラミニンや【IV】型コラーゲンは細胞増殖を抑えた。このようにフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分と細胞の相互作用が組織形成に深く関与していることが示唆された。 5.胎盤よりフィブロネクチン結合性プロテオグリカンを単離することができた。今後このものの特性や機能を明らかにしていく計画である。本研究中に用いた種々の物質の分離、精製に本補助金により設備された生体物質分離システムが有効に活用された。
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