研究概要 |
フィブロネクチンと細胞の相互作用および組織形成の関係を調べるため,組織のフィブロネクチン結合性物質について検索した結果,コアー蛋白部分でフィブロネクチンと結合する大型プロテオグリカンが胎盤に存在することがわかった. このプロテオグリカンに対するモノクローン抗体を作製し,種々の発育段階にあるヒト胎盤組織を組織化学的に調べた結果,フィブロネクチンの動態と一致しており,このプロテオグリカンとフィブロネクチンの結合が生体内でもおこっていることが推定された. ヒトケラチノサイトを用いた細胞培養実験において,細胞はフィブロネクチンやI型コラーゲン上ではよく接着,増殖,移動するが,ラミニンや大型プロテオグリカン上では,こうした細胞活動が抑制されることが確かめられた. 従って,このプロテオグリカンはフィブロネクチンと結合し,その細胞接着,細胞移動促進作用を調節して,上皮細胞の基底膜上での配列を促し,上皮組織形成に重要な役割を果していると考えられる. ヒト各種組織においてもこのプロテオグリカンはフィブロネクチンと共存的に分布し,組織形成,維持に一般的な役割を担っていると思われる. 腎組織では,各種腎疾患における糸球体基底膜の肥厚に伴い,このプロテオグリカン抗原が増加していることがわかった. 一方,増殖コラーゲン線維に一致してフィブロネクチンの増加がみられる肝硬変等では,線維化部分にはこのプロテオグリカン抗原は殆んど検出されなかった. こうしたことから,このプロテオグリカン抗原は主として基底膜形成に関与するものと考えられた. ヒト腎組織の尿素抽出液中のプロテオグリカンを調べた結果,フィブロネクチンと結合し,胎盤プロテオグリカンと共通抗原性を有するプロテオグリカンが存在することがわかった. 今後,胎盤以外の組織のフィブロネクチン結合性プロテオグリカンの特性を明らかにしていく必要がある.
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