胎盤組織のフィブロネクチンと血漿フィブロネクチンを化学構造的に比較するため、ヒドラジン分解法により糖鎖を分離し、放射能標識後、酵素逐次分解、メチル化分析等によりその構造を決定した。その結果胎盤フィブロネクチンは1分子あたり9本の糖鎖をもつこと、糖鎖の約60%はフコースを含むこと、3分岐、4分岐、N-アセチルグルコサミン分岐、ポリN-アセチルラクトサミン鎖などが存在することなど多くの点で血漿のものとは異なることが明らかになった。これらの結果は胎盤では組織独自のフィプロネクチンが合成・保持されているとする従来からの我々の主張を支持するものである。昨年までの研究で、フィプロネクチン結合性プロテオグリカンを見い出し、その特性を明らかにしてきたが、今回、培養ヒト羊膜上皮細胞(FL細胞)に対するこのプロテオグリカンの与える影響を調べた。その結果、FL細胞はフィブロネクチンやラミニンでコートしたプラスチックシャーレによく接着するが、細胞の伸展はあまりみられないこと、この接着はArg-Gly-Aspを含むペプチドで阻害されることから、インテグリンに属するレセプターが発現していること、このプロテオグリカンはフィブロネクチン、ラミニン表面に結合させておくとFL細胞の伸展を著しく促進すること、などがわかった。本プロテオグリカンのヒト皮膚における局在を調べた結果、表皮一真皮間の基底膜にフィプロネクチンと共存していることが光顕的にも電顕的にも明らかになった。一方、真皮乳頭部では両者の局在は必ずしも一致しておらず、組織における両者の役割に違いがあると推定された。以上のように本研究の結果、胎盤組織独自に合成・保持されているフィブロネクチンが細胞との相互作用を通して胎盤の組織形成に関与し、その機能がプロテオグリカン等の他の細胞外マトリックス成分によって制御されていることを明らかにすることができた。
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