研究概要 |
赤外スペクトル法,共鳴ラマン散乱法および電子スペクトル法を用いてへム酵素の酸素錯体並びに類似の錯体の電子構造を解明し下記の結果を得た。 1.西洋ワサビペルオキシダーゼcompound【II】の電子構造と反応性:天然のプロトヘムを種々の人工ヘム(ジアセチルヘムおよびマンガンプロトポルフィリン【IX】)で置換した西洋ワサビペルオキシダーゼを用いて共鳴ラマン散乱法により解析し,従来議論のあったcompound【II】の構造がFe(【IV】)=0であることを最終的に証明した。次に共鳴ラマン散乱スペクトルのpH依存性の解析等からその反応性が酸素原子と蛋白中アミノ酸残基との間に存在する水素結合の強弱により支配されていることを見い出した。J.Biol.Chem.,261,8371-8382。 2.シトクロムP450の酸素錯体の電子構造:通常のヘム蛋白質(Hb,Mb,カタラーゼ,ペルオキシダーゼ等)が,その第5配位子にイミダゾール基由来のN原子を持つのに対しシトクロムP450は第5配位子に電子供与性のより強いチオレートアニオン(【S^-】)を持つ為,その酸素錯体の電子構造は通常の酸素錯体の構造と大幅に異なることが予想された。この点を明らかにする為シトクロームP450cam中のヘムをジアセチルヘムで置換した標品を用いてその酸素錯体を安定化し,赤外スペクトル法により酸素錯体中の0-0の伸縮振動数を我々が開発した高速掃引型赤外分光装置を用いて解析した。その結果0-0伸縮振動は1078【cm^(-1)】に存在し通常のヘム蛋白と殆んど変らぬことを見い出した。その詳細な原因については現在追求中である。 3.ペルオキシダーゼCO錯体の電子構造:上記2.の研究の一貫としてより安定なCO錯体の電子構造を共鳴ラマン散乱法により追求した結果,西洋ワサビペルオキシダーゼのCO錯体は少なくとも2種類の互いに異なる構造を持つcomformerより成り立っていることを見い出した。J.Biol.Chem.,262,inpress。
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