研究概要 |
原爆被爆者にみられる染色体異常を有する異常クローンの生物学的意義を追求するため本年度は近距離で被爆し骨髄細胞に20%以上の染色体異常をもち健康に生活している2名、前白血病期の貧血を有する者3名ならびに近距離で被爆し白血病になった9名の計14名の骨髄細胞染色体を解析すると共にDNAを抽出した。得られたDNAをNIH3T3細胞にトランスフェクションを行い、pS【V_2】Neo遺伝子で選択を行った後ヌードマウスに注射するというin vivo selection assayを用いて活性化遺伝子の検出を行った。ヌードマウスでの腫瘤形成は健康人で2名中1名,前白血病期で3名中1名,慢性骨髄性白血病5名中2名,急性白血病4名中4名に見出された。この腫瘤よりDNAを抽出、ヒト遺伝子がゲノムとして取り込まれているかどうかを10腫瘤について検討したところ、6腫瘤にはヒト遺伝子の移入が証明された。現在どの癌遺伝子が腫瘤形成に関与したかを各種probeを使って検討中である。結論的ではないが一部の腫瘤にはras遺伝子の関与が想定されている。一方、同一材料についての細胞遺伝学的追求であるが健康人2名では37.5%および48.3%にそれぞれ安定型染色体異常が見出された。前白血病期の3名では1例で多彩な核型異常を残りの2名では正常核型と異常核型のモザイクを、慢性骨髄性白血病では4名中2名にPh´以外の染色体異常を、また急性白血病では4名中3名に異常クローンが認められた。来年度にこれら腫瘤形成に関与する癌遺伝子が確定されれば染色体異常部位と比較を行うことにより放射線誘発癌形成機構に一歩迫ることができるものと思われる。
|