研究概要 |
原爆被爆者にみられる染色体異常を有する異常クローンの生物学的意義を追求するため近距離で被爆し骨髄細胞に20%以上の染色体異常をもち健康に生活している4名,前白血病期の貧血を有する者5名,近距離で被爆し白血病になった12名, 対照として被爆歴を持たない慢性および急性白血病患者34名計55名の骨髄細胞染色体を解析すると共にDNAを抽出した. 得られたDNAをNIH3T3細胞にトランスフェクションを行い, pSV_2Neo遺伝子で選択を行った後, ヌードマウスに注射するというin vivo selection assayを用いて活性化遺伝子の検出を行った. ヌードマウスでの腫瘤形成は被爆健康人で4名中3名, 前白血病期で5名中3名,被爆白血病で12名中12名に見出された. この腫瘤よりDNAを抽出し, ヒト遺伝子がゲノムとして取り込まれているかどうかを検討したところ, 被爆健康人で9個腫瘤中8個,前白血病期で5腫瘤中2個,被爆白血病で25腫瘤中21個にヒト遺伝子が証明された. またヒトのどの癌遺伝子が移入されたかを検討したところ大部分がNーrasであることがわかった. 一部にはKーrasの関与も考えられるため, 現在検討中である. 一方, 同一材料についての細胞遺伝学的追求であるが, 被爆健康人でも35〜48%の安定型染色体異常が見出された. 前白血病期5名では1名で対彩な核型異常がみられ, 残り4名では正常と異常のモザイクを示した. 慢性骨髄性白血病では全例にPh^1染色体が証明され, 一部には付加的異常も認められた. 急性白血病では2名正常核型を認め, 残りは全例異常核型を認めた. 来年度には疾病の経過中のトランスフォーム遺伝子発現の様相について検討を加え, 放射線誘発癌形成機構解明に一歩迫る予定である.
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