研究概要 |
APRT欠損症は反復する尿路結石症と腎不全を来たす遺伝疾患である. 特に日本人に多く見られ, これは日本人には日本人型APRT欠損症という特異なタイプの病気が多く見られるためであることは以前我々が解明していた. この日本人型APRT欠損症の疾患遺伝子の起源をつきとめるという, 本研究の当初の目的はこの2年間でほぼ完全に達成された. 即ち我々はこの病気の原因の遺伝子を同定し, その異常をヌクレオチド配列のレベルでつきとめた(第5エクソンのヌクレオチド置換). さらに蛋白質のアミノ酸レベルでも, 病気の原因となっているアミノ酸置換をつきとめ(36番のMet→Thrの置換), そのヌクレオチド変異, アミノ酸置換がすべての日本人型APRT欠損症の家系に見られることも確認した. そのアミノ酸置換を確実に同定する新しい診断法を開発した. 日本人型APRT欠損遺伝子(APRT^*J)に本質的な変異部位以外にDNA多型を見出し, その多型とAPRT^*Jとの関係の分析によりAPRT^*Jが単一の祖先遺伝子に由来することを全く疑問の余地なく証明した. 本研究の進行により, 当初の目的以外にも多くの成果を得ることができた. まずAPRT欠損症の世界全報告例の半数以上を我々が診断するに至った. さらに, 日本のAPRT欠損症のうち, 実に約80%が日本人型APRT欠損症に属する事が判明した. 従って日本に特にこの病気の報告が多いのは, APRT^*Jの存在が関与していることがわかった. さらにほとんどの患者は正しく診断されていないことがわかり, この研究を推進し成果を報告することが, 多くの患者の利益になることがわかった. APRT^*Jが単一の先祖遺伝子に由来することの証明は進化の法則にも大きな疑問を投げかけ, 優生学という世界のいろいろな法律にも大きな影響を与えている考え方にも変更をせまるものであると確信する.
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