研究概要 |
従来,脳血管攣縮の実験にはin vivoの動物とin vitroの摘出血管とが使用されてきた. 前者は慢性実験が可能であるが攣縮の定量化に問題があり, 後者は急性実験しかできず血管攣縮の本態である慢性進行性の病態を捕えることは不可能である. 本研究は以下の実験を行い新知見を得た. (1)ラット胸部大動脈平滑筋細胞を培養し慢性のin vitroの実験の可能な新しい実験モデルとして確立した. 本実験モデルを使用しセロトニン,アンギオチンシンII,ノルアドレナリン,オキシヘモグロビンを投与し,オキシヘモグロビン投与群だけに平滑筋細胞の慢性進行性の収縮とmyonecrosisを証明した. またオキシヘモグロビンのWash outによる収縮の予防効果は3時間以内では認められ24時間以降では認められなかった. 以上の結果は血管攣縮による進行性変化はオキシヘモグロビンによってinitiateされる何らかの内因性機序によるものであり, 外因性収縮物質蓄積によるものとは考え難い(J.Neurosurg.vol68 No6,1988 掲載予定)(2)平滑筋細胞培養液中の各種プロスタグランディPG代謝産物を高速液クロHPLCによって測定した. 正常平滑筋細胞培養液中にはロイコトリエンLTC_4,D_4は検出されずプロスタサイクリン代謝産物PGF_1αとトロンボキサン代謝産物TXB_2は検出された.オキシヘモグロビン投与ではLTC_4,D_4の上昇は観察されず,PGF_1α,TXB_2の上昇が観察された. (3)クモ膜下出血患者の髄液のPG代謝産物を測定した. 脳血管攣縮の臨床徴候を示せない患者ではLTC_4,D_4は殆んど検出されず, 重篤な攣縮の徴候を呈した患者では著明に上昇した. (4),(2)と(3)の不一致は(1)で論じた如くPG代謝産物は原因物質として蓄積したものでなく結果として生じたものか,あるいは攣縮には多種類の原因物質が関与するためであるのかいずれかであろうと推察された.
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