複合ホヤBatrylloides simodensisは群体間で自己・非自己認識を行う。これは群体間の癒合・非癒合として現れ、各群体間の癒合・非癒合関係は安定で遺伝する。また本材料は無性生殖によって生長するので、各群体はクローンとして扱うことができる。今回、癒合関係のわかっている7系統のクローン群体の蛋白質組成を比較し、癒合性との関連を検討した。 群体をホモジナイズして得られた抽出液をサルプルとし、2次元ゲル電気泳動法を用いて蛋白質を等電点と分子量によって分けた。分離された蛋白質は染色によって平板ゲル上のスポットとして認識される。得られたパターンを比較した結果、それぞれのパターンは98%以上の類似性を示す一方で、いくつかの安定した変異のあるスポットを持っていることがわかった。このスポットは各群体の持つ種内変異と解釈される。変異の中で相互の癒合関係と全く同じ挙動を示すものは得られなかったが、変異の一つについては抗血清を得ることに成功したので、今後この種内変異を示す蛋白の局在から、その役割や癒合性との関連について検討してゆく予定である。 上記のB.simodensisと非常に近縁な種と考えられるB.vialaceusについて、自己・非自己認識の観察を行なったところ、50例の癒合テストのうち全てが癒合反応を示した。一方、B.simodensisとの癒合テストでは両群体で非癒合反応が見られる。このことから種間の非自己認識は行なわれていると考えられる。現段階でB.violaceusが同種の群体と常に癒合するとは云えないが、研究対象となった集団に限定するならば、常に癒合すると考えてよいと思われる。このような例はボトリルス科では今まで報告されていない。また、種内での自己・非自己認識の適応価値を考える上でも興味深い事実である。
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