研究概要 |
今年度は,港湾・水運・道路・河川・都市計画・橋梁といった個別の土木事業に視点を当て,昨年度得られた,土木とそれぞれをとりまく分野における技術,制度,組織などの面における発展過程を概観したが,そのなかでも,わが国において各時代時代に港湾が果たしてきた歴史的役割と港湾建設技術の発達過程に重点をおいて考察した. このために,今年度当初から港湾整備事業に関する記述がみられる明治期以前の日本土木史,明治工業史,土木学会で編纂している土木事業史,各港港湾史といった資料を精力的に収集した. しかし,これらの資料はもとより時代的・地域的な偏りをもったものであり,検討項目ごとに全体を見渡すことが困難な状態にあるため,まず,これらの資料から必要事項を抽出し,データベース化する作業を行った. 抽出事項は,港湾利用と港湾施設建設に関するものに大別される. 前者は,港湾の特徴とその発展の経緯を見ようとするもので,取扱貨物に関する指標や入出港船舶に関ま9指標をその内容とする. また,後者はこれらによって特徴づけられる港湾の利用形態を可能ならしめる基盤となるもので,外郭・係留の各施設ごとに,構造形式や環境条件,建設期間,建設費,施工技術,建設材料などがその内容である. 整理に際しては,時代によって記載項目や表現の精粗がまちまちであるため, 関連する記述から判断したり,なんらかの整理基準を設けて統一を図るなどした. このデータベースを用いて,港湾が河口港から沖合いに展開していくまでに,浚渫船の発達や軟弱地盤上における防波堤・岸壁の建設技術が大きな影響をもつことがわかった. 同時に,背後都市の経済的発展は港湾の発展過程と極めて良く符合し,都市の発展に港湾が果たしてきた役割をはじめ,ひいては社会や個人の目的意識の変化を通じてわが国文化に多大な影響を及ぼしてきたことが明らかにできた.
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