研究課題/領域番号 |
61510005
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森 匡史 神戸大, 文学部, 助教授 (30027982)
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研究分担者 |
伊藤 邦武 神戸大学, 文学部, 助教授 (90144302)
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キーワード | 科学哲学(philosophy of science) / 実在論(realism) / 反実在論(anti-realism) / 存在論(ontology) / 認識論(epistemology) / 意味論(semantics) / 直観主義(intuitionism) / 相対主義(relativism) |
研究概要 |
クーン、ファイヤーベント以降、現在に至る科学哲学を対象として。 1.われわれはまず、そこに於て用いられる「実在論」及び「反実在論」という概念の意味の厳密化に努めた。その結果、これらの概念が存在論的意味、認識論的意味、及び意味論的(semantical)意味という3の意味を持つこと、実在論-反実在論論争においてこれら3つの意味を常に区別すべきこと、及び通説に反し存在論的意味が基本的なものであること、を知り得た。 2.次に現在の主要な3つの反実在論の論理的基礎を検討して、以下の成果を得た。第1に直観主義論理学を採るダメットの反実在論は認識論的には極端な検証主義に立脚するものである。同時にこの反実在論は、意味論的には2値原理の拒否に立つが故に、かつてアインシュタインが量子力学を批判する際に採った「実在論即2値原理」という前提と全く同じ考えに立脚するものである。第2にファン・フラーセンの構成的経験主義は科学的には反実在論であるが常識的には実在論である。第3にパットナムの内在的実在論はクーンらの相対主義的科学観の再現に外ならない。 3.クーン、ファイヤーベントの弱い反実在論は、後期ウィットゲンシュタインの言論ゲーム論を継承し、歴史的に相対化されたカント主義的認識論の一種である。パースのプラグマティズムは、客観的真理の存在を極限概念として要請するゆえに、これらの相対主義とは似て非なるものである。 4.以上の歴史的・批判的検討を通じてわれわれの得た一応の成果は、ひとつの世界観として反実在論は人間認識の有限性の確認に立脚するという注目すべき性格を有するものではあるが、応々にして「全き相対主義」に陥る危検をはらんでいる、ということである。相対主義に陥らない反実在論は如何にして可能かということが、今後われわれが探求すべき重要な課題として残されている。
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