【目的】 認知におけるリズムの一側面はいわゆる知覚チャンクとして促えられている。しかし、これが行動発現のリズムにいかなる影響を及ぼすのか、また逆に行動発現のリズムが認知様式にいかなる影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした。当研究では、行動(認知した内容の出力)におけるリズム的側面、特に運動系のチャンクに焦点をあて、認知と行動それぞれのリズム、チャンクの相互作用を明らかにしようとした。 【実験方法の開発】 上記の目的を達成するために適した課題として、(1)パソコン・キボード入力作業と、(2)ピアノ所見演奏の二つの課題を設定した。(1)は単純な英文テキストのワープロ入力作業である。テキストの読書時の眼球運動をアイカメラで測定、ビデオ録画し、各瞬間の打鍵に関しては、開発した装置とソフトを用いて、注視点と打鍵とのタイミング関係が測定可能とした。(2)では、メロディーだけの楽譜を作製・提示し、これをピアノ習熟度の異なる被験者に演奏させた。楽譜所見時の眼球運動はアイカメラで測定・ビデオ録画した。ピアノ演奏の指の運動は別のビデオカメラで上から録画し、眼球運動と指運動の画像を一つの画像に合成した。この方法によって、音符認識とピアノ打鍵との関係を解析・検討可能とした。 【結果】 以下では、テキストあるいは楽譜面の注視文字あるいは音符と、それに該当する打鍵のズレ(文字数、音符数あるいは遅延時間)をeye-hand spanと呼びEHSと略すことにする。(1)のワープロ課題ではEHSが4-16文字であることが一人の被験者の結果から示された。しかしここには、a)記憶方略の在り方、b)キーボードやテキストの確認のための注視が介在している。(2)のピアノ演奏課題では、EHSが初心者で2-3音符、熟練者で5-7音符であることが示された。ここには、c)楽譜をpolyphonicなものにしていくことなどの課題が残されている。 【次年度および今後の課題】 本年度は、補助金の交付内定が10月半ばを過ぎて行われたために、実験方法の開発と試験的実験とに大部分の時間と労力を削くものとなった。このために、次年度に多くの課題が残されている。それは結果で述べたa)-c)の実験デザインに関わるもの、および、時系列分析等のリズム解析を行うための実験装置の改善とソフトの開発である。次年度には、これらを克服して目的を達成する。
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