研究概要 |
【目的】認知におけるリズムの一側面はいわゆる知覚をチャンクとして捉えられている. これが行動発現のリズムにいかなる影響を及ぼすのか, また逆に行動発現のリズムが認知様式にいかなる影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした. このために, ピアノ視奏時の情報獲得・処理方法(楽譜の見方と打鍵方法との関係)に焦点をあてた. 【方法】上記目的を達成するために, (1)瞬間認知実験, (2)中途打ち切り実験, (3)通奏実験の3種の実験を実施した. (1)では楽譜を瞬間提示し, 演奏させる. (2)では演奏中に楽譜を遮蔽し, その後も認知した所まで演奏させる. (3)は普通の初見演奏である. (2), (3)では読譜時の眼球運動をアイマーク・レコーダーで測定し, これに打鍵内容のタイミングを同期して記録し, 読譜と運指の関係を解析した. 主実験変数は課題曲の難易度と被験者の技能水準である. 【主な結果】I.瞬間認知実験では, 一般記号(数列)の瞬間認知能力には被験者間差は見られなかったが(平均:4.12個), 楽譜では瞬間認知範囲が曲の難易度および被験者の技能水準によって相違することが見い出された(平均:1.28-4.75音符). II.中途打ち切り実験では, 当該音符の打鍵に先立つ先行認知範囲(演奏楽譜の遮蔽後の正演奏音符数)が曲の難易度と被験者の技能水準によって大きく異なることが見い出された(1.50-13.50音符). III.先行認知範囲は, 打鍵に先立つ注視音符数(EFHS;eye fixation habd span)と有効視野の広さが加算されたものである. 通奏実験からEFHSが技能の高水準の被験者では平均約6音符で演奏箇所にかかわらず安定した傾向が示されたのに対し, 技能水準の低い被験者ではEFHSが1-8音符の間で大きく変動する傾向が示された. 【まとめ】技能水準の高い被験者では上述の認知範囲の広いことが示されたのみならず, それに支えられて, 認知と行動のタイミングが安定していることが見い出された.
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