出生直後に片眼を摘出されたラット(OEB)と3ケ月令以上になって十分成熟した時点で片眼を摘出されたラット(OET)との行動の差を調べているが、これまでに判明した点は次のとおりである。(1)成熟したラットに白黒回避弁別訓練を課すと、OEB・OETとも同じ位の速さで学習することができる。しかし、残存眼と反対側の皮質視覚野を破壊して同じ課題で再学習を行なうとOEBはOETより有意に速く学習基準に到達する。(2)残存眼の視神経を電気刺激して、残存眼と同側の皮質視覚野から、反対側の視覚経路を辿らない誘発電位を記録すると、OEBはOETに比べ誘発電位の振幅が大きく、記録される部位が広がること、OEBはOETには見られない電位成分(Ci2)が観察されることが分った。これらのことから、出生直後に片眼を摘出すると残存眼と同側の視覚経路が補償的に機能するようになるという結論を導いた。しかしその後の行動実験はこの結論に疑問を投じた。OEB、OETとも成熟後、脳梁切断を施し左右半球の連絡を断ち、(1)と同じ手続きで行動実験を行なった。そうすると、OEB、OETとも再学習において、300回の制限試行内で学習基準に到達することができなかった。このことは、残存眼と反対側の皮質視覚野を破壊した後での再学習が成立するためには、原学習において反対側視覚野から同側視覚野に情報が渡されていなければならないことを示唆している。つまり、出生直後の片眼摘出による補償作用にはこのような限界があることが示されたのである。今回のプロジェクトはさらにこの研究を進めて、脳梁が急速に形成されはじめる生後3週令でラットの脳梁を切断し、(1)と同じような実験手続きで行動実験を行なった。すると今度はOEBは再学習で学習が成立した。そればなりでなく、原学習での時点で反対側皮質視覚野を破壊しておいても、学習を獲得するという結果が得られた。研究は進行中である。
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