糖尿病などの病因により高年令における中途失明が増加している今日、彼らの知的活動を補助する目的で文字情報を伝達しうる多様な手段を考えて行かなければならない。しかし、触パターン知覚に関する我々の研究においては、以前から高令者の触パターン知覚が若年令より劣り、困難であることが指摘されていた。この研究においては、幼年から70代の高齢者まで幅広い年齢層の人々を被験者として、ドット状で表示される機械的なひらがな文字、紙の上に表示される浮上り線文字ひらがな、いわゆるオプタコン素子を用いて表示される0から9までの数字の触覚的な読み取り実験を行った。これらは能動能モードと受動能モードの両触知覚的モードを含むもので、結果は盲人の結果とも比較された。 晴眼被験者は皆、触覚によってパターンを把握するような経験は以前にはなく、盲人よりは成績が劣ったが、10代20代の若年者の成績はこれを大差はなかった。それ以降年令が高くなるにつれて成績は顕著に悪くなり、多くの時間がかかるのに、しかも間違いが多かった。文字の大きさも最大で7種類を用意して検討したが、小さな文字の場合には高齢者はほとんど読むことが出来なかった。この劣化は能動触においてばかりではなく、受動触においても顕著であったことから、単に老化によって触覚が鈍化するとか、触運動的なモーター・コントロールがうまく行かなくなるといった原因によるのではなく、より高次レベルで個々の触情報をまとめて文字をイメージし、長期記憶内の文字情報と照合するといった作業レベルで変化が起っているのであろうということを予測させた。
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