1.本研究の目的は、注意に伴う入力情報の初期・後期各選択に関わるERP表出を明らかにし、各選択過程の性状を探ることである。 2.聴覚実験:初期選択を操作するfiltering課題と後期選択に関わるselective-set課題を組合わせた事態を用い、標的探索困難度の増加に伴う注意関連陰性波(Nd)の振幅増大と持続時間延長を認めた。これはNdが課題関連(注意)/無関連(無視)入力刺激間の初期選択後の関連入力に対する標的/非標的間後期選択過程を反映するという有力な証拠となる。ところが、標的に対し【N_2】波が注意方向(関連/無関連)に関わらず観察された。これは【N_2】と標的検出との関連と共に前注意過程における標的検出を示唆する。この示唆は、Ndと【N_2】の立上がり潜時がほぼ等しく(180ms)、条件によってはNdの方が長く持続するという知見と共に、理論的問題を生ずる。【N_2】立上がり時点で入力刺激が標的として検出されているのならば、Ndを標的/非標的選別過程に反応づけるのは時間的に矛盾する。一つの可能性は前注意過程で実行された標的/非標的選別の確認作業("rechecking")であり、Nd波は注意を払って意識的制御下で行う確認作業を反映すると推定できる。62年度には、この確認作業仮設の検証実験を計画し、聴覚注意選択機構の解明をめざす。 3.視覚実験:selective-set事態において、標的探索に伴う陰性波は自動的検出に比べ制御的探索時に大きく、また標的を含む刺激画面よりも標的を含まない画面に対して大きい傾向にあった。後者の知見は反応時間から推察される中途打切り型探索様式と一致する。しかし、「ひらかな」と「指文字」を同色(緑)で作製した重なり刺激を用いた実験では標的探索に伴う陰性波が著しく減少した。さらに、これらの陰性波には大振幅の陽性波が重畳し、視覚注意選別に関わるERP表出特徴を明確に把握しえていない。今後、諸問題を解決した実験を計画している。
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