研究概要 |
1.相互扶助組織は多様であるが, 我々が対象とした岩手県沢内村長瀬野地区と金ケ崎町谷地下地区には, 各々一種の組織のみが特に発達しており, この二者はきわめて対象的である. 2.長瀬野の「萱無尽」は本来の機能(萱葺屋根及び家屋の建築や建替のための労働力と物資の提供)のみを果す家と家との「関係」であり, 明確な構造をもつ「組織」の形をとらない. この関係は集落全体に及び, 対抗あるいは競合する関係は存在しない. また, これが宗教や娯楽あるいは家屋関係以外の経済的相互扶助などの他の機能をもあわせもつものではないため, 通常表面にあらわれてこない. しかしほとんどの家では, 労働力と物資の受授を記録する帳面を保管しているので, 貸借関係は, 社会の諸条件の変化にかかわりなく存続する. 3.これに対し, 谷地下の「秋葉山敬神講」は, 本来は火災の際の相互扶助であるが, 宗教的・娯楽的機能ももつ組織で, 共有財産をも有する. この財産の故もあって組織への参入・離脱は無制限ではない. 定期的に会合をもち宗教的儀式をおこない, 集落の運営全般について討議し, 会食・歓談の時をすごす. かつては, 同講中は部落会的役割をになっていたが, 行政が次第にそれに代ってゆき, さらに生活改善運動が, 同講中の会食歓談の簡素化に拍車をかけ, 人々の宗教への関心の多様化あるいは希薄化が, 講中の宗教機能の衰退をうながした. けれども同講中は, きわめて整備された組織構造をもつため, 今日もなお命脈を保っている. 4.上述のように, 異なる性格と歴史をもつ二つの相互扶助組織が, いずれも存続があやうくみえながらも消滅しない理由はなにか, それを支える背景は何かについては, 現在検討分析中である.
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