本研究の一方の柱である、地域移動に関する理論的研究としては、従来の社会移動論の研究成果を中心にリヴューしながら進めてきた。そこでは、移動過程にくらべ、移動後の社会的プロセスに関する研究が少なかった。また、実際に生きている人間の生き方や価値観といった、地域社会の「部分」から「全体」を眺めようとする視点がやや希薄であった。 他方、もう一方の柱である実証的研究に関しては、その実施とまとめを以下のようにおこなった。 1)移動の起点として設定した青森県黒石市の地域社会構造の変化を、主として統計資料等より明らかにしてきた。注目すべきは、津軽地方における黒石市の位置と、黒石市の内部構成である。 2)移動-定着に関わる組織として、黒石市市長室、青森県県人会、東京黒石会をとりあげた。それらの組織の変遷過程を整理・分析するとともに、その中から調査対象者の具体的な同定をおこなった。 3)生活史、ライフ・コース研究の手法により、移動層(黒石→東京、黒石→東京→黒石・津軽地方)のインタヴュー調査をおこなった。 調査項目は、移動理由、移動の社会的コンテクスト、移動先の地域社会への定着過程、移動前後のライフ・スタイルの変化等である。全体的な検討結果は報告書に譲りたい。ただその分析の際に、われわれが特に注目したのは、以下の三点である。 (1)前移動期-移動期-定着期における個人的な時間の経過と「社会的な」時間とのかえわり、およびその中でのライフ・スタイルの変化 (2)移動-定着過程における社会関係のネット・ワーク、その種類と形成の方法 (3)一連の生活過程における故郷とのつながり、故郷観・東京観、その変化の過程
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