研究概要 |
日本の五大寄せ場である山谷(東京),釜ケ崎(大阪),寿町(横浜),笹島(名古屋),ドン(広島)の参与観察法を中心としたフィールド・ワークをおこなった。調査自体はいまだ未完了であるが、本研究ではとくに寄せ場の類型化と寄せ場社会の変動に焦点をあてた。まず五つの寄せ場の形成過程、社会・文化構造を比較して、特徴の類似と相異を抽出することをめざした。この分析は、寄せ場(ないしは簡易宿泊所街)の社会学的概念の構成のために不可欠な手続きである。類型化の作業は、いまだ進行中である。次に研究者のこれまでの寄せ場研究に立って、年々変わりゆく寄せ場の諸相をとらえ、その中から寄せ場の将来の予測をめざした。日本経済の全般的不況の中で寄せ場が全体として縮少傾向にある反面、最近部分的ではあるが青壮年層の日雇労働者の流入がめだっている。外国人労働者の流入といった新たな要因をも合わせて、寄せ場は大きく変わりつつある。日雇労働者と他の下層労働者の労働力の環流のメカニズム、日雇労働者と外国人労働者の共存と競合のダイナミズムといった、寄せ場をとりまく状況の中で寄せ場をとらえていかなければ、これからの寄せ場の実相は見えてこなくなるであろう。 以上、本研究から導きだされる結論は、寄せ場の類型化と寄せ場概念の構成、寄せ場研究の視野と対象の拡大、であった。寄せ場の社会、文化構造の分析、寄せ場労働者の精神世界の分析といった課題も、こうしたマクロな分析の中で位置づけていく必要がある。この点は、今回の調査にてどれほどか前進したものと考える。今後、さらにアジアのスラムをも視野に入れながら、寄せ場研究の前進をはかっていく予定である。
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