日本の村落共同体は、稲作灌漑農業に伴う水と山の共同利用と管理を媒介にした結合に依拠している。ところが、畑作地帯の集落は、地形・地質・水利等自然条件の制約からくる稲作不適地に立地することが多く、鹿児島県の畑作地帯も、これらの自然条件の制約による稲作不適地に広がっている。 全耕地の9割が畑地である溝辺町石峰地区の農業集落調査によると、同地区は、古くは生活用水確保が困難だったため、小規模分散型の集落を形成してきた。現在でも140戸余りの世帯は、9班(小組合)に分かれ、大きな班でも34戸、小班では6戸の班編成をなしている。当地区には、町水道が普及するまで(鹿児島新空港の開設後)、2つの水利組合があり、町水道普及後に1組合は解散したが、他の1組合は現在でも部落の共同管理下にある。この水利結合とは別に、9班は、かつて班単位で町名儀の分収林を共同管理し、現在でもこれを管理する班は多い。9班を結びつけている細織は、生産森林組合であり、この組合による分収林の共同管理は160haにも達している。ところで、各班は、血縁者による属人的な結合方式に依拠しており、町水道普及以前はこの血縁者集団は至近距離内に居住するものが多かった。 鹿児島新空港開設による強制移転や、町水道の普及に伴う水問題の解消で、血縁者集団の居住地の分散傾向が生じているが、分収林の権利・義務等利害関係が絡むことから、分散居住しながらも班編成は依然として、出身地の班に加入するものが多く、生活の拠点もここに求められている。以上のように、畑作地帯の共同は、稲作集落におけるような強固な属地主義を必要とするのではなく、むしろ、生活用水や山林等の共有に規定される要素が強く、属人主義の結合がより濃厚となっている。また、この属人は血縁者集団とのかかわりが深いように思われる。
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