戦後部落解放運動・同和行政・同和教育の諸取り組みにより、部落問題の解決が現実的な日程にのぼっており、今後の同和行政は、部落差別を抑制・緩和する行政にとどまらず部落問題を解決しきるための同和行政として展開されなければならない。本研究では「地域改善対策特別措置法 以降の同和行政の課題を明確にするため、(1)戦後同和行政が部落住民の人格的・主体的自立を保障するため、社会問題の重層化をいかに緩和・抑制してきたか、(2)経済的・社会的・文化的格差を解消しようとする諸施策が地域住民の人格的側面での格差解消という目的と結びつき、どう展開してきたかを調査し、とりわけ同和行政、同和対策事業の積極面を堤起することとした。主として同和行政・同和対策事業が積極的に展開し、事業の進歩率も百パーセント近いという和歌山県南紀地方と、滋賀県大津市の部落住民の生活構造にかかわる調査を実施し、地区住民の「生活力の形成 過程を、同和対策事業の展開とからめて分析した。その概要は「部落差別の現状と未解放部落住民の社会的自立への課題 として、部落問題研究所の社会福祉研究会等々で報告しているのであるが、同和対策事業が対象住民の人格的・主体的自立の保障をめざして取り組まれる時、同和地区の生活保護率は着実に低下しており(和歌山県印南町切目・上富田町朝来・滋賀県大津市下龍華等々)、逆にそうした視点をもたないで事業が先行した地域では住民の行政への依存心、「物とり主義 が強くなり、生活保護率もまた高くなっている。(京都市七条地区等々) 部落問題の完全解決にむけての重大な課題として、未解放部落住民の社会的自立がかかげられているのであるが、それは、同和対策事業が、常に対象地区住民の労働や暮らしを支える「生活力の形成 と結びついて展開されなければならない。
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