研究概要 |
本研究は、わが国の伝統工芸の中でも重要な部分を占める民芸的陶器製作に携わる人々の職業的社会化の様態を、とくに陶工の徒弟制教育の実態に焦点を合せて把握し、そこに含まれる教育の諸原理・文化的特質を明らかにしようとするもので、本年度は、日本の焼物の地域的多様性とそれに対応した後継者育成の概況を把握することに主眼をおき、兵庫県今田町(丹波立枕焼),滋賀県信楽町(信楽焼),愛知県瀬戸市(瀬戸焼‥赤津焼),岐阜県多治見市(美濃焼),及び栃木県益子町(益子焼)の5地区を選び、各地区において、年齢・世代別に抽出した陶工若干名に関する修業体験を中心とした生活史記録の収集、現在修業中の者の行動観察と彼らに対する面接調査、特定の窯元で修業した弟子のネットワークの追跡調査等を行なった。これまでの調査で明らかになった点として、(1)窯元の職人たちを師匠とし、彼らと生活を共にしながら下働きから始まる伝統的な徒弟制教育は次第に姿を消しつつあること、(2)成型(轆轤ひき)など、陶芸技能の基礎的な部分については、窯業試験場の伝習所や窯業訓練校のような制度的教育を通して習得したのち、然るべき窯元に"入門"して「見習い工」として技能の実践的修練を積むというパターンが形成されつつあること、(3)伝統的な徒弟制的修業パターンは、将来「陶芸作家」を志向する若者が、名を知られた窯元(作家)との間に結ぶ師弟関係の中に見出されること、(4)陶業を「家業」と考える者が漸減し、個人的な興味や動機から陶工を志す者が漸増していること、(5)元来、陶芸技能の修練とは無縁と考えられていた学歴への関心が焼物を家業とする陶工の間でも漸増していること、などを上げることができる。なお、収集した観察記録・面接資料等はすべて、パソコンのデータベースとして活用できるようにするため、データ処理のプログラムを設計し、逐次処理を行ないデータの蓄積をはかっている。
|