自我同一性地位を確定するための個人面接調査の結果、全体的地位としては早期完了あるいはモラトリアムの生徒が大半を占め、同一性拡散の生徒も少数ながら見出された。しかし、同一性達成の地位にある高校生はほとんど皆無である。同一性地位の下位領域別に見てゆくと、進学・職業・価値観の領域に関してはモラトリアムまたは早期完了が非常に多く、同一性達成または拡散は少ない。ただし、政治意識に関しては同一性拡散が最も多く、次いで早期完了が少数認められるが、モラトリアムおよび同一性達成の地位にある高校生はほとんど皆無である。自我同一性地位に関する留学生群と非留学生群との間の差異は、主に職業および価値観の領域において見出された。すなわち、同領域において、前者は後者よりも多く危機もしくは傾倒を経験しており、それゆえモラトリアムあるいは早期完了の地位にある者が多い。これは、前者が留学することが決まり、渡航を間近に控えていろいろと自省する機会が増えたために生じた差異だと思われる。一方、自我同一性地位に関する性差は全体的にも下位領域ごとにも見出されなかった。同一性地位のいずれの下位領域においても、同地位に対する親の影響力は大きいように思われる。すなわち、すべての高校生について、モラトリアムや早期完了は親との密な対話および親からの助言と高い正の相関関係にあるが、逆に同一性拡散は親との対話や親からの助言の欠如と高い正の相関関係にある。また、同一性拡散は自己内省の欠如と同様、親など他者に対する感受性の欠如に深く関連している。さらに、情緒的に深く結合していない親の価値観や他の属性は子どもに内面化されにくいように思われる。質問紙調査の結果、自尊感情や自我同一性達成度に関して、留学生群と非留学生群との間に、また男女群の間にそれぞれ有意差は認められなかった。自尊感情の高低と自我同一性達成度の高低は正の相関関係にあった。
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