自傷行動に対して、ひも、副木などによって身体を拘束することがある。しかし、往々にして抑制具そのものが強化力を獲得し、外せなくなることがおこる。本研究は、この自傷行動と抑制具の関連について病棟での事例を間接的に職員に助言しながらビデオカメラで週三回、午前十時〜十二時及び午后四時ー四時二十分の行動を記録し分析、考察した。一事例をあげる。対象者は幼児期より現在まで自傷を長期にわたってくりかえし抑制具を用いてきた自閉症の青年、男、24才である。観察の初期には、首をかく自傷があり拘束手段としてのひも、手袋は自由時間帯につけられ、食事、手洗い、作業、入浴時に外された。自傷はひもを外した状態から職員につけてもらう迄の間によく見られた。職員にひもをつけてもらう時にそれを伝達するかのように首をかくことが観察されこの時には首をかくことが社会的な伝達行動なのか反社会的な行動なのかの判断がしにくく職員の対応が難しくなる。そのため、ひもの強化力を用いてひもをしてほしいという要求の会図《職員の肩を叩いてからひもを見せる》を学習した。この抑制具の強化力を社会的行動の形成に利用する方法は、一般によく用いられている自傷後、抑制具をとりあげるという罰の手続によって抑制具の強化力を用いる方法と異なり、適応的な行動のレパートリーをひろげることによって治療の好転をはかる新らしい方法である。この手続によって職員にひもをつけてもらう場面での自傷行動は低減したが新らたな場面で頭叩きが生じた。これについては消去の手続をとったが実行困難さもあって効果は見られなかった。その後、特に食事場面での自傷行動がめだち、これに対しては頭叩きのおこる前に職員が手をかざし抑制するという手続をとりその効果を検討している。物の抑制具とくらべて人が抑制具の代りとなって防禦する手続きはその可塑的な手続から有効と思われる。
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