研究概要 |
沙流川流域アイヌの文化人類学的基礎情報に関するデータベースを, 北海道大学大型計算機センターのADABASを利用して作成した. このデータベースに基づき, (1)1300年から1987年に至る沙流川流域アイヌに関する文献リストの作成, (2)出版年によるレコード数の変化, (3)情報復元年によるレコード数の変化, (4)人類学分類コード(OCMコード)によるレコード数の変異, について解析を行なった. この結果, 以下のことが明らかになった. 即ち, レコード出版数は現在まで増加の傾向にあるが, 情報復元年から見ると多くの研究は1850年から1950年を対象に集中している. したがって, この期間に関しては, 食物獲得, 社会組織, 信仰と儀礼等の人類学分類コードを含むアイヌ文化に関する多くの情報を得ることが可能である. しかし, 1900年以後, アイヌ文化の解体に伴ない, これらの情報は減少し, それに代わって土地利用, 森林, 鉱物資源の開発, 商業, 健康, 福祉, 教育, 社会問題に関する情報の増加が見られ, アイヌ文化の変化を裏付けることが可能である. さらに, この沙流川流域アイヌ・データベースに基づき, 1300年から1867年に至る歴史資料の内容に関して, 歴史-生態学的視点から分析した. その結果, アイヌの社会が一方では, 当該地域の生態的基盤と生計活動, 人口統計と居住型に支えられると同時に, 他方で交易活動, 雇用活動を含む松前藩, 幕府との間の政治的-経済的関係により成立していると結論づけることが可能である. したがって, データベース利用による文化人類学的視点からの分析方法論は, アイヌの生態と社会, 及びそれらの変化を解明するために有効であることを指摘することができる.
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