研究概要 |
東大史料編纂所・内閣文庫その他の研究機関に架蔵されている史料から、豊臣秀吉・秀次の発給文書を網羅的に蒐集した。また、大日本古文書・大日本史料・地方史など刊本史料から、同様の作業を行い、羽柴秀長・秀保・豊臣秀頼など一族の発給文書についての蒐集も行っている。文書目録の刊行は次年度に一括して行う予定である。同一文書が幾つかの史料集に収載されている場合があるので、その同定と本文の異同に注意して筆写し、添状発給者を摘出した。これによって、豊臣政権を支える奉行人層の実態と性格を明かにすることができ、無年号文書の年代比定にも役高つものと思われる。 秀吉発給文書の古文書学的研究は、これまで殆んどとりあげられていない。外交文書を例にとれば、秀吉は関白という官職名を自称し、日本年号を用いた文書を発給している。これは室町・江戸幕府の外交姿勢と大いに異り、王朝時代の対外認識を示すものと思われる。また、法令についても、秀吉朱印状として大名等に宛てたもの(刀狩令・海賊禁止令・宣教師追放令など)のほか、宿老または奉行人連署として出されたもの(御掟・同追加・田麦年貢三分一徴収令など)に大別されるが、なかには発布形態が不明なもの(人捍令など)もあり、口頭で発せられたものが法制化したケースも考えられる。大名・寺社・地域など発布対象ごとに添状発給者など担当奉行人が異っており、添状発給者の分析によって、命令系統や法の具体的運用等も明かにしうるものと思われる。このなかには、全国を対象としたものもあり、「天下之大法」と意識され、主従制的原理とは明かに異質なものも含まれている。秀吉および秀次が関白としての権能に基いて発すもの(公帖など宗教関係、継舟など交通関係,皇室公家関係など)も同様である。また、発給文書の様式論的検討も不可欠であり、たとえば「御内書」の古文書学上の定義等について、見直す必要があるように思われる。
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